人生の学び舎:スナック研究会「日本の夜の公共圏:スナック研究序説」

自分はスナックに行ったことがないのですが、「日本の夜の公共圏」というタイトルに惹かれて読んでみました。

日本の夜の公共圏:スナック研究序説

日本の夜の公共圏:スナック研究序説

 

本書は「本邦初のスナックについての本格的な学術研究の試み」だそうで、各分野の研究者がそれぞれ自身の研究分野の知見を踏まえ、スナックについて論じています。著者らが結成している「スナック研究会」は全国のスナックのデータベースを作成しており、スナックが多い町と治安(防犯)の関係といった統計的な調査研究も紹介されています。他にもスナックで行われるような「二次会」の系譜を考察したり、スナックにおける「社交」を考察したりする章があるなど多角的な内容で、興味深く読むことができました。ちなみに表題にした「人生の学び舎」は全日本スナック連盟会長の玉袋筋太郎氏の言葉らしいです。

さて、先月にちょうど東京の代官山書店で、この本に関連するトークイベントがあったので、そこにも参加してきました。(カフェフィロメンバーの三浦さんが進行役をされていました)

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著者の谷口氏の話の中で興味深かったのは、「東日本大震災後の被災地では、スナックの再開が早かった」という指摘でした。「頑張ろう日本」や「絆」というスローガンとは少しイメージが違いますが、現実的な「息抜き」としてスナックが必要とされたことが伺い知れます。

もう一つ興味深かったのは、若い経営者や起業家などが最近「スナック」によく言及しているということです。イベントの中で紹介があったのはShowroomの社長である前田裕二氏の著作でした。他にもホリエモンなどがスナックについて語っています。

人生の勝算 (NewsPicks Book)

人生の勝算 (NewsPicks Book)

 

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最近は若い人がクラウドファンディングでスナックを作ろうとする動きも多いようで、クラウドファンディングのサイトで調べると結構な数が出てきます。一方で全国のスナックの数はここ数年で急激に減っていっているようであり、これらの動きの間には何か断絶のようなものを感じてしまいます。

スナックは当初は若者のプレイスポットとして人気があったそうで、本書の第七章では苅部氏がマイケル・イグナティエフの指摘する「都会的帰属」(見知らぬ人々同士の親密さ)を日本のスナックの中にみています。上記の新しいスナックの動きは、この都会的帰属の場としてのスナックが念頭に置かれているように思えますが、顔見知りばかりが集まるような地方のスナックにおいては、人々のコミュニケーションの形式がかなり異なるのではないか、とも思いました。そのようなローカルのスナックが減っていくとして、クラウドファンディングでできるような「新しいスナック」がそれを代替できるのかどうか、気になるところです。

(おわり)