ICPIC2022体験記その2:メイン・カンファレンス1日目

ICPIC開催からだいぶ経ってしまったが、振り返りを残しておこうと思う。まずはメインカンファレンスの1日目。

スケジュール(勝手に日本語訳したもの)

Session1:Room H

タイトル:Children's right to participation: challenges from the Philosophy of
Childhood

発表者:Matos, S. (NICA-UAc (Interdisciplinary Nucleus for Children and Adolescents, University of the Azores)& Vieira, P. A. (NICA-UAc (Interdisciplinary Nucleus for Children and Adolescents, University of theAzores); NEFI – UERJ (Philosophies and Childhood Nucleus of Study, Federal University of Rio de Janeiro; Armando Côrtes-Rodrigues Secondary School (Azores, Portugal).

ポルトガルからのオンライン発表。後で調べたがアゾレス大学のあるアゾレス諸島は本土からかなり遠い離島で魅力的な場所みたいだった。

発表のテーマは「こどもの政治参加」。「こどもの権利条約」(1989)や国連の「こどもの権利委員会」(2009)においては、こどもが自身の関わる事柄について自由に発言する権利や、政治プロセスへの参加の権利が認められている。しかし、実際には選挙権に年齢制限が設けられているなど、こどもの政治参加は制限されている場合が多い。これを年齢主義や成人主義に基づく世代間不公正と考え、いかにしてこどもの政治参加を実現するか、そのためにp4cは何ができるかというのが発表者の関心のようだった。発表ではこどもの政治参加を推進する立場と抑制する立場の2人による架空の対話が海岸線に打ち寄せる波のアナロジーを用いて紹介されていた。

発表は時間の関係で理念的な部分の紹介にとどまっていたが、日本のp4cではあまり議論されていない(ように思える)こどもと大人の不公正に対する問題意識が強く感じられた。ICPIC全体を通じてポルトガルスペイン語圏の実践者の発表には同様の意識を感じる場面が多く、各国でのp4cの位置付けの違いを感じることになった。

タイトル:Countering Hate Speech: Philosophical Inquiry as a Tool to
Deconstruct Stereotypical and Prejudicial Thinking in Children.
発表者:Maria Miraglia

全プログラム中で最も関心のある発表の1つだったのだが、残念ながら発表者があらわれず流れてしまった…海外は深夜なのでやむなしか。要旨集をみると、p4cがヘイトスピーチの根底にある偏見やステレオタイプの形成にいかに有効なのか、実際の教材や実践内容を含め紹介する内容のようだった。資料が欲しいところ。

タイトル:Democratizing the Classroom: Realizing Kant’s Kingdom of Ends
through Lipman’s Community of Inquiry

発表者:Keisha Christle A. Abog (University of the Philippines)

リップマンの思想とカントの「目的の王国」がどのように接続されるか、という発表。両者の関連性を明確に論じた人はまだいない、という言い方がされていたのが意外だった。リップマン研究をあまり知らないのでコメントできないが、探求の共同体や哲学対話と「目的の王国」は直感的にもかなり親和性があると思える。最近だと寺田俊朗さんや中川雅道さんも『哲学対話と教育』のなかでカントについて言及している。

Session2:Room E

スペイン語圏の実践の興味があり、思い切ってスペイン語の部屋に突撃してみることにした。(スペイン語はHolaとGraciasぐらいしかわからない)

タイトル:Ciudadanía creativa para la construcción de paz de las infancias en
contextos de vulnerabilidad

発表者:Víctor Andrés Rojas (Corporación universitaria Minuto de Dios - UNIMINUTO), Alejandra Herrero Hernández (Corporación universitaria Minuto de Dios - UNIMINUTO), Linda Gallo Bohorques(Corporación universitaria Minuto de Dios - UNIMINUTO), Zaily García del Pilar Gutierrez (Corporación universitaria Minuto de Dios - UNIMINUTO)

DeepL翻訳によると発表タイトルは「困難な状況にあるこどもたちの平和構築のためのクリエイティブ・シティズンシップ」。コロンビア・ボコタでの実践についての発表で、なんと英語にも通訳してくれた!ありがたい、

ウィキペディアなどによると、ボコタは1990年代には世界で最も暴力的な都市と言われ犯罪率の高い都市だったようで、改善のために様々な取り組みが行われているようだ。こどもも幼少期から多くの暴力に晒されていることが想像できるが、今回の発表は暴力ではなく対話を強化することを目的に、地域の幼稚園や教会、図書館、文化センターなどが連携して行っている教育プロジェクトの紹介だった。

p4cはそのプロジェクトの中で行われているが、興味深かったのは、p4cが一部の施設で閉じて開催されるのではなく、さまざまな地域のアクターと連携しながら実施され、かつその後のいくつかのアクションに結び付けられているということだ。マイクロプロジェクトと位置付けられた活動では、例えばこどもたちが自分達の幼稚園の庭の環境を改善するために、地域住民への協力要請(ポイ捨てをしないなど)などの活動を連携して行っていたりするそうだ。美術館と連携し、作品の制作や展示なども行われている事例の紹介もあった。対話の場を作るだけで終わらせず、課題の設定、対話の場の準備やその後のアクションまで連携して、一連のプロセスとしてp4cの実践が行われていることに感銘を受け、印象に残る発表だった。

発表タイトル:Empoderando a la niñez rural para el diálogo democrático en Perú
発表者:Yina Rivera Brios (Pontificia Universidad Católica del Perú

「ペルーの農村の子どもたちに対する民主的な対話へのエンパワメント」というタイトルで、フレイレの実践との関連に関心があったのだがこちらも発表者不在で流れてしまった。残念。

Session3:Room D

この辺から英語のリスニング能力がキャパを超えてしまい発表の内容があまり理解できなくなる…二日目以降は日本語の発表も挟むことを決意。

タイトル:Philosophy with Matter? Philosophy that matters?
Attending to neurodiversity in communities of enquiries
発表者:Sumaya Babamia (University of Cape Town)

自閉症の子どもたちの対話実践についての発表。言語志向が支配的な探究の共同体の理論では排除されがちな要素を掬い上げるために、理論的背景としてポスト・ヒューマニズムの批評的アプローチが用いられ、物質のもつ役割を再評価しようという内容だった(と思う。十分理解できなかった)絵やさまざまなモノを用いた実践の様子が紹介されていた。対話におけるモノの役割については非常に関心があり、自分にとっても一つのテーマなので、機会があればこの方の研究をもう少しきちんとフォローしてみたいと思う。

タイトル:Polylogical Processmodel of Elementaryphilosophical Education
発表者:Andreas Höller

P4Cの教育理論を学際的に拡張しようという発表。具体的には未就学児、小学生、ティーンエイジャーなどステージを細分化し、それぞれの段階で心理学などの他の分野の知見も取り入れつつプログラムを構成しようという趣旨だと理解した。フロアからは未就学児とティーンネイジャーの哲学教育をどう区別するのか(本質的に同じことでは?)、などの質問があったように記憶している。

タイトル:School Education as “shadowing”: Implications and Opportunities
発表者:Shechter Roni ( Haifa University), Kizel Arie (haifa university)

この発表内容がどうしても思い出せない…割愛

Session4:Room G

最後はワークショップの時間。体力の限界に近づいてきたので気軽に参加できそうな馬場さんのWSを選んだ。

タイトル:Philosophical Life Story Game
発表者:Tomokazu BABA (The University of Nagano)

過去に連絡会などでも実施されていた「哲学人生すごろく」の英語版。実際に遊ぶのは今回が初めてだったが、用意されている質問もうまくできていてとても楽しかった。英語版は英語教育などにも活用できそう。

Keynote 1

Oriza Hirata, "Theater and Dialogue"/平田オリザ氏「演劇と対話」

過去大阪大学のワークショップデザイナー養成プログラムに参加しており、そこで平田オリザ氏の講義を受けていたので、懐かしく聞いた。いま改めて内容を聞くと、演劇の中に現在の社会のジェンダーロールや社会構造を反映させることに対するジレンマのようなものも読み取れ、自分の考え方の変化も感じることになった。

哲学カフェを始めたころ、平田氏の著作をいくつか読んだ。講演の内容の参考になるものも多いので挙げておく。

(おわり)