「オマ・ラウハ」の精神:こばやし あやな「公衆サウナの国 フィンランド」

今年の初めから京都・五条楽園にある「サウナの梅湯*1」にちょくちょく通っているのですが、そこでこんな本を売っていたので思わず買ってしまいました。表紙が素敵です。

公衆サウナの国フィンランド: 街と人をあたためる、古くて新しいサードプレイス

公衆サウナの国フィンランド: 街と人をあたためる、古くて新しいサードプレイス

 

フィンランドはいうまでもなくサウナ(sauna)発祥の地として有名ですが、現地のサウナの数は20世紀にかけて減少の一途をたどっていたようです。しかし2010年代に入ると、公衆サウナの魅力や意義が見直され、新しい施設が次々にオープンするなど再興の兆しが。同書はフィンランド・サウナの魅力にとりつかれ、現地の大学院でサウナを題材に修士論文まで書いた筆者が、フィンランド・サウナの魅力と街づくりに果たす役割について紹介した一冊です。同書ではフィンランド・サウナの概要紹介にはじまり、日本の銭湯との共通点、ヘルシンキ公衆サウナの歴史や最新の動向について紹介されているほか、近年の「サウナ・ルネッサンス」現象を支えた立役者たちのインタビューも掲載されており、フィンランド・サウナへの入門としてとても興味深い内容になっています。

詳しくはぜひ読んでいただきたいのですが、地域住民の手によって復活したサウナや、「アナーキー・サウナ」ともよばれる管理人不在の無料サウナ(!)など、単に商業施設的でない個性あふれるサウナも数多く紹介されており、その背後にあるフィンランドの文化も含めてとても魅力的な一冊でした。

やすらぎ/きよめ/いやし/たのしみ

フィンランド・サウナでは見ず知らずの人が同じ空間に集い、自然とコミュニケーションが生まれ、知り合い同士でも普段は話せないような会話ができる…などなど、このブログでも何度か取り上げている「サードプレイス」としてサウナが機能していることがわかります。サードプレイスとしてのサウナの様子がわかる映像をみつけたので紹介しておきます。

 

さて、同じ「裸の付き合い」の場として、フィンランド・サウナと日本の銭湯には共通する文化も多いです。同書では両国の公衆浴場文化の共通点として、建築家・道具学研究家である山口昌伴氏の指摘する「四つの価値」が紹介されています。

  • やすらぎ:心と体が緊張から解放される
  • きよめ:心と体が浄化される
  • いやし:心と体が患いから回復する
  • たのしみ:心と体が楽しむ

これらのうち「きよめ」は浴場特有の性質かもしれませんが、残りの3つはカフェや居酒屋など、他のサードプレイスにも当てはまる普遍的な特徴であるように思えます。

ところで、同書で取り上げられているサウナには、利用手順やマナー、禁止事項などの文字情報をあまり掲示していないところもあるみたいです。これは店側が利用者の振る舞いを規定しなくても、その場に居合わせた人が自然と見倣いあい、教え合うことで秩序が保たれるという考え方に基づいているということで、外国人向けの禁止事項の貼紙が目立つようになってきた日本の銭湯とは対照的であるように感じました。

フィンランドの人間関係においては「オマ・ラウハ(自分の平和)」という概念が重要視されるようです。これは自分の生き方を他人に干渉されたくない、という意味ですが、そこから「オマ・ラウハを守るために、他人に対しても寛容になろう」という価値観が生まれるそうです。「他者の生き方に寛容であれというこの価値観は、同時に、自分を取り巻く人びとに対する無条件な信頼を担保します*2」と筆者は指摘していますが、サウナでの寛容な雰囲気にもその精神が表れているように思いました。

この本を読んで日本の銭湯にも興味が湧いてきたので、まずは京都の銭湯巡りから始めようと思います(笑)

(おわり)