自宅でできる思考ワーク「名言が生まれた家」をつくりました

 人間の不幸の唯一の原因は、自分の部屋で静かに過ごすすべを知らないところにある。
パスカル『パンセ』)

昨今の状況を受けて私もずっと自宅にいるのですが、自分の家は見慣れた風景なのでどうしても退屈しがちです。そこで自宅を新鮮な気持ちで眺めることのできるワークを考えてみました。*1

名付けて「名言が生まれた家」

Zoomなどで複数人で楽しむこともできますし、一人で遊ぶこともできるワークです。
興味の湧いた方はご自由にお試しあれ。

コンセプトなど

ワークは以下のような設定で行います。

みなさんは研究者で、ある名言(出所不明)が生まれた家を特定しようとしています。研究者たちの努力の結果、その名言にゆかりがあるとされる家の候補は絞られてきました。
皆さんは候補になっている家(=みなさんの自宅)を調査して、その名言が生まれた痕跡を調査し、説得力のある仮設を立ててください。

つまり「ある名言がみなさんの自宅で生まれたと仮定して、自宅を調査し、名言が生まれた痕跡を探る」というワークです。

作家などの著名人が住んでいた家が観光名所になっていることがありますよね。そこを訪れたひとは「この机であの作品が生まれたのか〜」とか「この窓から見える風景が影響を与えたのかな〜」とか色々想像しながら(他人の)家の中をウロウロすると思います。これと同じことを自宅でやってみよう、というのが基本的なコンセプトです。

あそびかた

複数人でワークを行う場合はZoomなどのアプリを使います。手順は自由にアレンジいただいても構いません。よりよいアイデアがあればぜひ共有いただければと思います。

  1. Zoom等で集合し、みんなで一つの名言を決めます。
    いくつかの候補からルーレットやクジでランダムに選ぶのをおすすめします。

  2. 名言が決まったら、集合時間を決めて、各自家の中を調査します。時間は20分前後がいいかと思います。Zoomを使う場合40分の時間制限があるため、ここで一旦会議を終了し、集合時間に開始する別のZoom会議を設定しておきましょう。

  3. 「名言がそこで生まれた」といえるような風景・物などの「痕跡」を各自の家の中で探します。その名言が何を意味するのかを考えつつ、その意味に合致する「痕跡」を探してみましょう。

  4. 時間が来たらみんなで再集合して、各自の見つけた「痕跡」と仮説を共有し、どの説が最も説得力があるか話し合います。参加者によって名言の意味の捉え方が少しずつ違うことも多いと思いますので、それぞれの説の共通点や相違点を話し合うと役に立つかもしれません。

  5. 終わり方は自由ですが、時間に余裕があれば感想を共有してもいいと思います。おつかれさまでした。

ひとりでも1〜3の作業はできますので、ひとりで楽しむこともできます。調査結果をSNS等で発信して、他の人の調査結果と比べても面白いと思います。

以下、やってみてわかった注意点やコツです。

  • 自宅をあたかも他人の家であるかのように思い込みましょう。名言を考えたのは自分ではなく、その家に住む他人だと考えたほうが楽しめます。
  • 作者が明らかな実在の名言だと、その作者のイメージに引きずられてしまいます(下の記録参照)。出所不明の名言(けっこうあります)を選ぶか、作者を隠しておいたほうが面白いと思いました。
  • 見つけた風景や物などの「痕跡」は画面で共有できた方がいいと思いますが、難しい場合や自宅を公開したくない場合は口頭での説明だけでもOKです。

実際にやってみました

試しにZoomを用いて4人でやってみました。ルーレットで選ばれた名言はこれ。

砂漠が美しいのは、どこかに井戸をかくしているからだ。
(サン=テグジュペリ)

各自の自宅を調査した研究員たち(参加者)からは次のような仮説が出ました。

  • 研究員A
    浴室が汚かったが最近になって何回か掃除された痕跡がある。
    汚れきった空間から美しい浴室を目指したのだと思われるが、その過程で掃除それ自体の美しさに気づいてこの名言が生まれたと推測できる。

  • 研究員B
    絵のトレース台が置いてあった。明らかにここで名言が生まれたと思われる。
    発言者は絵が得意だったが、ある日「井の中の蛙」だということに気づいた。
    しかし果てしない絵画の道への挑戦が美しいのは、かつて「井の中の蛙」だった自分があるからではないか。この名言はそのことを表したものだと推測できる。

  • 研究員C
    家の地下に使われていない蛇口があった。家の近所には砂漠のような土地があるので、ここで喉を潤した経験を振り返った発言ではないかと推測できる。

  • 研究員D
    部屋の中に植物とウイスキーが置いてあった。植物は前から部屋にあったと思われるが、おそらく荒んだ生活を送っていたところに余裕が生まれて、植物に気付いたときにこの名言が生まれたのだと推測できる。
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↑ちなみに私の家でした

 
C以外の説は「砂漠」と「井戸」を比喩的に何かを当てはめていましたので、話し合いではそれぞれの説で「砂漠」と「井戸」が何を表わしているのかを掘り下げて考えてみました。この作業は共同でワイワイできるので面白かったです。

  • 研究員A:「砂漠」は掃除の作業、「井戸」はまだ生まれていない空間
  • 研究員B:「砂漠」は挑戦、「井戸」は自尊心
  • 研究員D:「砂漠」は生活、「井戸」は余裕

ここまでやったところでワークは終了。今回はサン=テグジュペリの名言を使いましたが、彼のイメージや経歴をイメージしてストーリーを膨らませた人もいました。ただどうしても参加者によって知識にバラツキがあるので、みんなでやる場合は作者は一旦伏せておいて、後でネタばらしした方が面白いかなと思いました。

 おわりに

いかがでしたか?もともとこのワークはオランダの哲学者ピーター・ハーテロー氏の考案した「哲学ウォーク」という実践に影響を受けていますが、「名言を使用する」という点以外はかなり違ったものになりました。
他にも自宅でできるワークを考え中ですので、完成したら順次公開する予定です。お楽しみに!

*1:このワークの開発にあたっては、桂ノ口結衣さん、富田真史さん、米村真吾さんにご協力いただきました。ありがとうございました!